孤独女と王子様
2回目のリフトに乗った後、剛さんの"このタイミングでやや後ろに重心をかけるんだ"のアドバイスが、私の滑りを変えた。

『そうそう。凄いね由依ちゃん。転ばずにスピードも出始めるし。実は僕よりセンスあるんじゃない?』
「いえ、そんな」

次にもっと上に行くリフトに乗って、そこから5本ほど滑ったところで、ランチタイムにした。

食べているのはふたりともカレー。

「大丈夫なんですか?」
『何が?』
「ほとんど寝ていないのに」

深夜0時に待ち合わせて、そこから夜な夜なスキー場まで運転し、車の中で仮眠を取っているだけだから、睡眠時間はかなり不十分のはず。

『あぁ、そんなこと?寝ていないのは由依ちゃんも一緒じゃん』
「私は運転していませんから」

すると、テーブルを挟んで私の向かい側に座っている剛さんは私の顔を覗きこんだ。

『由依ちゃんが楽しんでくれることが今日の目的。あと、由依ちゃんにそういう心配のされ方をされるのは、僕には嬉しいな』

そう言って微笑んだ剛さんは、再び残ったカレーを食べる。
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