シーサイド・ティアーズ~潮風は初恋を乗せて~
「ちょっと待った~! ど、どういうこと?! ドッキリじゃないよね? マジ?」
 電話口の向こうから、里子の驚いた声がしている。
 このリアクションは自然なものだと思った。
 お見合いのために帰郷している私からの連絡なんだもん。
 しかも、今まで、男性とお付き合いした経験が少ない私が、唐突に「恋人が出来た」と言ってきたんだから……。
「本当だよ。昨日、告白して……」
「やるじゃん! よくやった!」
 なぜか褒められちゃった。
「ありがとう」
「で、お見合いのほう、どうするわけ? キャンセルだよね?」
 私はここで、詳しい事情を話した。
 里子なら口も堅くて信頼できるから。
「状況、把握したよ。そっか、秘書さんなのね。私は、いい判断だと思うよ。気持ちに嘘をついていても、悲しいだけだからさ。会長さんは気の毒だとは思うけど、そんなお金持ちのイケメンだったら、きっとまたすぐわんさかお見合いのお話が来るから、そんなに気にしないはず。なので、雫もあまり気にする必要ないかもね」
「う、うん……」
 そりゃ、やっぱり気にするけどなぁ……。
 でも、里子の言うことにも同意。
 気持ちに嘘をついていても悲しいだけ……確かにそうだよ……。
「で、早速、夏祭りへ一緒に行く予定、と。よくやった! よくやったよ!」
 また褒められちゃった。
「あ、ありがとう」
「オサム君のことは任せといて。なんなら、私がオサム君と一緒に夏祭りへ行ってもいいし。見てのとおり、チャラい人だから、あまり気にしないと思うからさ」
 酷い言われようだ。
 でも、オサム君には申し訳ないけど、何となく分かる気はした。
「だけど、せっかくこうして里子とオサム君に会えたのに……一緒に夏祭りへ行けなくて、ごめんね」
「な~に言ってるの。夏祭りへは好きな人と二人で行くほうが1億倍いいでしょうが! オサム君や私となら、別の場所へ行けばいいでしょ。オサム君も私も、多分ずっとこの島にいると思うから、今回みたく帰郷してくれれば、いつでも会えるって」
「ありがとうね」
 里子の優しさが身に沁みた。
「それで、ちゃんと浴衣とか草履とかは用意したの?」
「ああっ!」
「やっぱり~。考えていなかったでしょ」
 電話口の向こうで笑う里子。
「大丈夫。私に任せなさい! 確か、雫って、私とそんなに身体のサイズ変わらなかったじゃん。私の浴衣を貸してあげるよ。私は3着も持ってるから」
「いいの?」
「もっちろん! 一番可愛いのを貸してあげるね。取りに来てよ」
「何から何までありがとう」
 持つべきものは親友、かな。
 里子みたいな、良い友達がいて、本当によかった。
「今、彼を待たせてるんでしょ。あまり長話している場合でもないね。明日でいったん、その彼と気兼ねなく会える日はお預けとなるんでしょ。貴重な時間じゃん」
 そうだった……。
 桜ヶ丘さんが到着されたら、いったん私たちは会えなくなってしまう。
 もちろん、翔吾君は「桜ヶ丘さんの秘書」という立場だから、お見合い開始後もただ顔を合わすだけなら可能だとは思うけれど、今みたいに気楽に二人っきりでどこかへ出かけることは、しばし不可能になるはず。
 そのことを考えると、胸が苦しくなった。
「よし、今日明日、この島でのデートを満喫するんだ! たとえば、海へ泳ぎにいったり、カラオケへいったり、はどう? ショッピングはもう行ったんでしょ? 山へトレッキングに行くのもいいね。彼って、運動とか好きそう?」
「うん、体力には自信があるって言ってたはず」
「だったら、海や山は外せないね! 水着、持ってないなら、買ったほうがいいかも。さすがに、私とそこまでぴったりサイズが同じじゃないはずだから。そうそう、彼と一緒に水着を買いにいけばいいよ! 彼もきっと喜ぶって!」
 想像しただけで恥ずかしいけど……そういうものなのかな。
 翔吾君が付き合ってくれるのなら、買いに行こうかなと思った。
「今晩、また電話してよ。新たなデートプランを考えておくからさ! 何としてでも、この恋を成就させないと」
「ありがとう」
 私のことを心配し、深く思いやってくれている様子が伝わってきて、嬉しかった。
「じゃあ、すぐ来られる? 浴衣、用意して待ってるから」
「うん、多分すぐに出られると思う。またあとでね」
「はーい、またあとで」
 そこで、里子は電話を切ったようだった。
 私は急いで翔吾君に知らせに走る。
 これから、浴衣を借りに、里子の家まで行くことを。
< 49 / 113 >

この作品をシェア

pagetop