今宵も、月と踊る

橘川家の中でも“月天の儀”を執り行う “月渡りの間”は、一際静謐な空気を纏っている。

この部屋には都会の喧噪も、耳障りな世間の声も届かない。池に注ぐ雨水の一滴さえ聞こえそうな痛いほどの静寂に包まれている。

……神の世は静寂のその先、人の手では遠く及ばない遥かな高みにある。

人間は自分勝手な生き物だ。

人智を超えた力は、大いなる恩恵をもたらすこともあれば、時には災厄となり人に仇なすこともある。

それらは容易くコントロールできるものではない。特に欲望にまみれた人間社会においては、己の利益を優先する輩の方が圧倒的に多い。

だから、祈りを捧げる人間は神に試される。

願いを聞き入れるに値する存在なのか、常に問い質されている。

心を偽っても神前では意味をなさない。あの天に輝くお月様は何もかもお見通しなのだから。

……だから、私も。

心と身体を全てさらけ出して踊るの。

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