今宵も、月と踊る

「この着物だけで十分よ。贅沢を望まなければ大抵の物は自分のお給料で買えるし……」

前々から思っていたが、小夜は欲がなさすぎる。

独立心が強いのは大いに結構だが、男としては甘えられるのだって悪い気はしないのに。

「他に望みはないのか?」

どんなに小さなことだっていい。心の片隅に俺という存在を植え込みたかった。

「じゃあ……もう一回綺麗って言ってくれる?」

極上の微笑みと共に告げられた可愛いらしいおねだりに、目をしばたたかせる。

ああ、もう……小夜には敵わない。

「何度でも言ってやるよ」

頼まれなくたって何度でも言ってやる。似つかわしくない愛の台詞だっていくらだって吐いてやる。

もしかしたら、溺れているのは俺の方なのかもしれない。

< 215 / 330 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop