今宵も、月と踊る

小夜は俺が記事を読んでいる間、大人しく黙って待っていた。

ページをめくる音だけがやたらと辺りに響いていて、寄り添う身体から伝わる熱が心地良かった。

俺は国際大会出場に至るまでの過程を紐解いたインタビュー記事を読み終えると、感想を述べるより先に尋ねた。

「……この選手と知り合いなのか?」

肩口で切りそろえられたボブカットに小麦色の肌が印象的な女性だった。

ゴールテープを切る瞬間を捉えた写真には日々の練習で鍛えぬかれた筋肉の躍動感と、たゆまぬ努力を重ねる精神力の強さがそれぞれ切り取られている。

彼女はどこか小夜と似通った雰囲気を持っていた。記事を読み進める内に、その理由が明らかになった。

若手の台頭、度重なる怪我にも負けず、国内の選考会を勝ち抜いた勝利の秘訣を尋ねられると、彼女はインタビュアーに明快に答えたのだ。

……大学時代を共に過ごしたライバルが己を飛躍させてくれた、と。

紹介されている略歴による出身大学、年齢、種目、雑誌が送られてきたことに鑑みると、ライバルとは小夜の事に違いない。

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