恋宿~イケメン支配人に恋して~
涙でぼやける視界の中、逃げるように早足で廊下を抜けて戻ってきた自分の部屋。
バタン、とドアを閉めた瞬間に、一層涙がこみ上げる。
「っ……ぅ、ぐすっ……、うぁっ……」
抑えきれない泣き声に嗚咽も混じり、ぐちゃぐちゃに崩れるようにその場に座り込んだ。
遊び、冗談。私なんて、いらない。
そうだよ。だってもともと、そういう条件。
私が花瓶を壊してしまったから。田中さんが休むから。だからここで働いていただけで、『私だったから』選ばれたわけじゃない。
分かっている、分かっていたつもり。
だけど、彼の一言はいつだって強く響く。嬉しい言葉も、残酷な言葉も。
『お前じゃなくたって』
どうして、だろう。
慎に浮気された時も、別れを決めた時も、泣かなかったのに。どうして今はこんなにも、涙は止まらないんだろう。
傷ついている。苦しい、痛い。
酔っていたからした?ううん、きっと、酔っていなくてもした。
千冬さん以外とでもした?ううん、彼とだから、した。
本気にするよ、当たり前じゃんか。あんなキスされたら嬉しくて、もっと愛しくなる。
苦しくなるほどの涙のなか、気付いてしまった。こんなにも彼の言葉が響く理由。
好き、なんだ。
千冬さんのことが、好き。
だから傷付く。だから苦しい、悲しい。今更気付いたところで、全て遅いけれど。