恋宿~イケメン支配人に恋して~
『私』を見つけてくれた、彼の言葉。
だけど、そんなの思い込みだった。
彼は支配人だから、旅館を経営するために私を雇っていたにすぎない。
従業員だから、話を聞いて言葉をかけてくれただけ。いざという時助けてくれただけ。
従業員だから。人手がないから。だから、それらの理由がなくなった私にはなんの意味もないんだろう。
そう思うと、また涙はこぼれて。ここにいたい、そう思いながら、早く逃げ出したいと願った。
そして迎えた、30日目。
「お世話になりました」
午前中のチェックアウトを終えた頃、旅館の入り口で深々と頭を下げる私に、箕輪さんを始め仲居の皆は寂しそうな顔で私を見る。
「本当に行っちゃうのねぇ、さみしくなるわ」
「またいつでも来るんだよ!おばちゃんたちも東京行ったら会いに行くからね!」
「ありがとうございます」
小さく笑って、荷物の詰め込まれたキャリーバッグを手にする私に、奥からは大渕さんや島崎さんなど、皆揃って見送りにきてくれているのが目に入った。
「わざわざ見送り、ありがとうございます」
「当然だろ、1ヶ月一緒にいた仲間との別れだからな!……って、あれ?そういえば千冬さんは?」
あたりをキョロキョロと見渡す島崎さんからこぼされた『千冬さん』の名前。
その一言に箕輪さんは呆れたように眉間にシワを寄せる。