恋宿~イケメン支配人に恋して~
伊香保を出て2時間と少し。景色は徐々に山や緑からコンクリート色のビルたちに移り変わり、気付けばあっという間に東京へと辿り着いた。
「おー……懐かしいな」
東京駅のホームから、空に伸びるビルを見上げ呟く千冬さんに、そういえば彼も数年前までこの街で暮らしていたことを思い出す。
「千冬さんはどの辺に住んでたんですか」
「代々木。会社が新宿だったからな」
「へぇ……」
どこか不思議な気持ちでそれを聞きなら、「こっちです」と駅の中を歩き始める。
「お前は?」
「家は世田谷です。会社は品川」
どんな会社だったか、どんな仕事をしていたか、そんな話をお互いに軽くしながら歩き、地下鉄に乗りバスに乗り……と30分近くかけてやってきた先で私は足を止めた。
世田谷の住宅街のとある一角。そこに建っている17階建てのマンションの一室が、私の家だ。
「マンション……」
「はい。マンションですけど」
『実家』というイメージから一戸建てを想像していたのか、空高く建つマンションを見上げる千冬さんは驚きながらも苦笑いをする。
そんな彼を連れ、エントランスのロックを解除すると、スタスタと10階にある自宅へと向かった。
『108号室・YOSHIMURA』とプレートに書かれた部屋の前で、茶色いドアをガチャリと開ける。
目の前には見慣れた小さな玄関と、いつもの我が家の匂いがした。
「た……ただいまー」
細い廊下の先にある白いドアに向かって小さく呟く。すると、部屋の中からはガチャン!ガタン!ドタバタドタバタ、とにぎやかな音が響き、かと思えば勢いよく母が飛び出してきた。
「やっと帰ってきた!!理子!あんたって子は一体どういうつもりな……の……」
母は54歳という年齢相応のシワを浮かべ、物凄い勢いで怒鳴るものの、私の隣にいる千冬さんを見て徐々に落ち着く。