恋宿~イケメン支配人に恋して~
「ただいま……っておい、なにしてんだ」
「千冬!」
「千冬さん!」
それはちょうど帰ってきた千冬さんで、彼は壁際に追い込まれる私と追い込むその人という光景を見て、これまた怪訝な顔をする。
「ちょっと千冬!なにこいつ!彼女ってホント!?」
「千冬さん!なんなんですかこいつ!誰ですか!」
「あ!?こいつとか言わないでくれない!?貧乳のくせに生意気なんだけど!」
「はぁ!?そっちが先に言ったんですけど!それに貧乳じゃなくてスレンダーって言うんです!!」
ギャーギャーと言い合う私とその人に、千冬さんはふたりまとめてゲンコツを落とす。
「っ〜……いったぁ〜……」
「近所迷惑。時間考えろ」
「だって!」
「こいつが!」
「二人とももう一発いっとくか?」
殴られてもまだ言い合いを続けようとしたものの、げんこつを構えながらにらみつける千冬さんに二人揃って口を塞ぐ。
「ったく……さっさと部屋入れ」
やはり強い千冬さんに、私とその人は渋々部屋へと入った。
通された部屋の中は、壁側に木製の本棚が置かれ、小さなガラスのテーブル、黒いソファと旅館のイメージとは真逆の洋風なイメージの家具で揃えられている。
部屋の端には観葉植物やポスターなどが飾られているところから、あの部屋が質素なのは仮眠室として使っているからで、私生活は意外と普通の年相応の男性なのだろう。
「あー、疲れた……けど予想よりすんなりあがれたか」
ソファに座りながら辺りを見渡していると、スーツの上着を脱ぎネクタイを外す千冬さんにその人はいたって自然に台所へ向かう。
「千冬、コーヒー飲む?それともビールにする?」
「コーヒーでいい。理子……向こうの彼女の分も頼む」
「はいはい……少しでも発育がよくなるようにミルク多めに入れてあげようねー」
「ちょっと。さっきからうるさいんですけど」
鼻で笑いカップを手に取る後ろ姿を睨むと、千冬さんは呆れたように私の隣へと座る。
「はい、どーぞ」
「はいどうも」
「……どうも」
そしてテーブルにコーヒーをふたつ並べて置くと、その人は私たちの向かいに座り自分の分のコーヒーに口をつけた。