恋宿~イケメン支配人に恋して~
「人の上に立って旅館を背負って、自分の働きひとつで経営が左右される。そんなプレッシャーに勝てる?どうせ途中で嫌になるんじゃないの?」
「そんなこと……」
「『そんなことない』、?そういえば、前にもそう言い切って逃げ出して、千冬を置いていった最低な女がいたっけ」
「え……」
『最低な女』
それはきっと、以前八木さんが言っていた千冬さんの元彼女のことだろう。
きつい言い方、だけど現実。実際、その現実を乗り切れなかった人がいる。
彼の言い方は、私へというよりその彼女への怒りをぶつけているように聞こえる。
「逃げ出すなら今だよ。千冬が本気になる前。まだ、立ち直れるうち」
友達を取られるとか、そういう気持ちできつく当たってるわけじゃないんだ。
きっと、宗馬さんは千冬さんの前の彼女のことを怒っている。千冬さんを置いて、この地を離れた彼女のことを。
そして、同じことを繰り返さないように私を牽制している。
また、千冬さんが傷付くことのないように。
「……、」
なにも言えず黙る私に、宗馬さんは台所を離れるとそのまま奥の寝室へと入りバタンとドアを閉めた。
ひとり残されたその場で、冷めていくお皿に手を添えたまま私は動けずにいる。
『どうせ途中で嫌になるんじゃないの?』
この先も千冬さんといるということは、そのうち仲居から女将になるということ。
千冬さんは『女将として働くのが無理だったら好きなことをしても構わない』『旅館の力になれなくても捨てたりしない』って言っていた。
でも私は、この旅館も含めて好きだから、ここにいたい。
だけど、人の上に立つ?経営を左右する?
女将になる、ということがどれほど大変で大きなことなのか、わかっていなかった。いかに自分の考えが甘いかを知る。
大丈夫、なのかな。私にできるのかな。
千冬さんの支えになれるのかな。不安ばかりが込み上げる。
「……すー……」
リビングに戻ると、ソファに座ったまま眠り続ける千冬さんがいる。
……私で、いいのかな。
問いかけることも出来ず、その大きな手をきゅっと握った。