恋宿~イケメン支配人に恋して~
「……ん、」
香るコーヒーの匂いに、そっと目を覚ます。
大きな窓から差し込む太陽の光から今が朝だと知ると、ソファで横になっていた体をゆっくりと起こした。
寝てた……。
ふと見れば昨夜ここで寝ていた千冬さんの姿はなく、私の上には千冬さんが使っていたはずの毛布がかけられている。
あれ、千冬さんは……?
「起きたか?」
するとかけられた声に台所のほうを見ると、そこにはマグカップをひとつ持ちこちらへ歩いてくる千冬さん。
先ほどの匂いは、そのカップから漂っていたのだろう。
「……おはようございます。早いですね」
「つい習慣でな」
「私、寝てました?」
「あぁ。俺が朝方起きた時にはフローリングの上で丸まって寝てたぞ」
「体痛くないか?」と笑いながら彼が私の隣に座ると、ソファがギシと小さく音を立てた。
「まだ眠そうな顔してるな」
「……いつもこんなもんですけど」
「いや、いつも以上にマヌケだ」
また失礼なことを……。こういうところは、宗馬さんと仲がいいのも納得できてしまうくらい似ている。
不満げに口を尖らせる私に、千冬さんは長い指先でそっと頬を撫でた。
「昨日、宗馬に言われたこと気にして遅くまで眠れなかったんだろ」
「え?なんで……もしかして、聞いてました?」
「寝てたら聞こえてきたんだよ」
それを『聞いていた』と言うのだと思う。
宗馬さんの言っていたことを考え、気付けば深夜3時すぎまで起きていたこともお見通しなのだろう。その黒い瞳はまっすぐに私を見つめる。