恋宿~イケメン支配人に恋して~
「不安、か?」
「……そりゃあ、まぁ」
『不安』、その気持ちを伝えるように、頬に触れる彼の手に自分の手を添える。
「怒られるかもしれないですけど……私は、このまま女将になるとか後を継ぐとか漠然としか考えてなくて。ただ、千冬さんと、この旅館といたいって気持ちしか、なかったから」
頑張っても、頑張っても、無理だったらどうしよう。
出来なかったら、千冬さんをがっかりさせて、彼女と同じ道をたどってしまったらどうしよう。
「人の上に立つとか経営のこととか、肝心なことを考えていなかったんだって、そう実感したら……ちょっと、不安です」
以前父が言ったのは、こういうことなのだろう。そういった点を含めても、私には無理だと言ったのだと思う。
呟いた私に、千冬さんは納得したように小さく頷く。
「そうだな……確かに、お前は人の上に立てるタイプじゃないな」
「え!?」
「どう考えてもそうだろ。どちらかといえばお前は……そうだな、横だ」
上じゃなくて、横……?
その言葉の意味がいまいち分からず首を傾げる。
「横に並んで、同じ目線で相手の気持ちを考えて、あれこれ悩みながら一緒にやっていく。不器用だろうけどな」
「……それって、いいことですか?」
「あぁ、それでいいよ。そんな理子がいい」
そんな私の不安を拭うように、千冬さんはしっかりと頷いてくれた。
優しい瞳に私の顔を映して、全てを抱きしめるように。
「焦って考えて不安にならなくていい。先のことは、毎日過ごしているうちに考えられるようになる」
「千冬さん……」
「だから今は、まず互いのことや気持ちを知っていこう。お前は、支配人の恋人になったわけじゃない。俺自身の、恋人だから」
この先の未来がどうなるかなんて分からない。だけど、きっと上手く行くときも行かないときも、なるようにしかならないんだろう。
分からないことを想像して焦るより、今は恋人として彼と過ごす日々を大切にしよう。
私は、“支配人”の恋人じゃない。
“芦屋千冬”の、恋人、だから。