リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【後編】
始業時刻まで、あとわずかと言うころ。
室内には、いつもと変わらない朝の喧騒が溢れていた。
眠そうな顔で欠伸をかみ殺している者もいれば、パソコンのディスプレイを眺めている者、楽しげな様子で談笑している者などと、それぞれがそれぞれの朝の時間を過ごしている。
そんな中、いつもの時間に出社してきた木村は、大方の予想を裏切ることなく、明子のその声を聞くなり騒ぎ始め、今日の飲み会は欠席することを伝えると「仕事なんかどうでもいいですから、飲み会だけは出てくださいっ」などど言い出し、朝から小林にやや小さめのカミナリを落とされるという始末だった。
そんな木村に笑いを噛み殺しつつ、やれやれと立ち上がった明子は、そのまま給湯室に向かい、温かいお茶を淹れて席に戻った。
そして、奇妙なものを自分と木村の机の間に見つけたのだった。
渡辺たちも不思議そうな顔つきで木村を見ている。
いったい、なにを始めたのやらと明子は困惑しつつ木村に尋ねた。

「木村くん、これはなに?」

吊り下げられているそれを指差しての明子の言葉に、木村は驚いたような声をあげた。

「なにって、テルテルボウズですよ。主任、知らないんですか?」

質問に対する答えとしては間違ってはいないが、明子が求めている答えはそれではない。
小さく息を吐きこぼし、明子は言葉を換えて問い直した。

「知ってます。なんで、そんなものが、こんなに沢山、ここに吊るされているのかを知りたいの」
「それは、明日のためにですよ」
「明日?」

きっぱりと言い切られたものの全く理解できない木村の説明に、明子は困ったように顔をして、お願いだから判るように説明してちょうだいと目で訴えると、それが通じたのか、木村は得意げな顔で喋り出した。

「明日、お見合いじゃないですか」
「そうね」
「だから、テルテルボウズを吊るしたんです」
「晴れますようにって」
「違います。主任、知らないんですか、この木村の伝説を」
「それは、そんなに有名な伝説なのかな」
「我が家では、みんな知っています」

一向に進まない話に、コイツ、どうしてくれようと明子が目を座らせ始めたことに気づいた渡辺が、ため息を溢しつつ木村を窘めた。

「木村。ぐちゃぐちゃ言ってないでさ、さっさと説明しろって。喉を痛めている小杉主任に、必要以上に喋らせるなよ」
「あ、すいません」

渡辺にそう促されてた木村は、しまったと言う表情を浮かべつつ明子に詫びるように手を合わせると、ようやく、明子が知りたかった照る照る坊主がそこに吊されている理由と思しき言葉を口にした。
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