リスタート ~最後の恋を始めよう~ 【後編】
「昨日、会っちまったのか、例の男と」

それが誰を指しての言葉なのか、尋ね返すまでもなく理解した明子は、一つ息を大きく吐き出しながら、こくりと頷いた。

「ちょっと目を離したすきに」

困った人ですと、芝居かがった口調で顔をしかめる明子に「さっそくかよ」と小林も盛大なため息を吐いた。

「さすが、牧野としか言いようがねえな」

そう言いながら苦笑する小林は、そのまま「亮一に、話しちまったからな」と言葉を続けた。

「え?」
「あの男は誰だと聞かれてな。知らねえと誤魔化したところで、信じるわけねえからよ、あいつは」
「牧野さんは、話したくなかったみたいですよ」

なのに、それを教えてしまった大丈夫なのだろうかと案じる様子の明子に、小林は「心配すんな」と肩をすくめた。

「牧野も、そんなん想定済みだろ。兄貴の様子がおかしいってときは、俺に聞いてくるって言うのが、いつものパターンなんだよ。俺に聞いたほうが手っ取り早いんだとさ」
「はあ」
「君島に聞いても、あいつはどっちかつうと、牧野の意思をまずは尊重するからな。本人が話さないことを自分が言うわけにはいかないと、突っぱねちまうんだよ」
「へえ」

明子は小さく頷きながら、なるほどねと、小さく一人ごちた。
確かに、君島と小林の性格を考えれば、自分もそういう選択をするに違いなかった。

「でな。こっから本題」
「へ? 本題?」

ただの事後報告だろうと、のほほんと小林の言葉を聞いていた明子は、いったい何の話があるのだろうと、やや身構えた。
それに気づいた小林は、大した話じゃねえよと、笑う。

「亮一がな、話をしたいんだとさ」
「私と、ですか?」

驚いたように目を丸くする明子に、小林は「あのなあ」と呆れたように言った。

「この話の流れで、他に誰がいるんだよ」
「そりゃ、そうですけど……、それって牧野さん抜きで、話したいってことですよね?」
「だろうな」
「小林さんを通して言ってきたってことは、牧野さんには内密にってことですよね?」
「その通りだよ」

大正解、大変よくできましたと、おどけた口調で明子をそう褒めそやす小林をよそに、牧野に内緒でなにを話したいというのだろうかと、明子は訝しがいるしかなかった。
そんな明子に、小林はまた、ため息交じりで苦笑をこぼす。
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