カメラマンと山小屋はよく似合う
「おばあちゃんっ!」

「あらあらつーちゃん、どうしたの?」

老人ホームのベッドに腰掛けるおばあちゃんは、頬にガーゼを当ててにっこりと笑った。

「おばあちゃん、…おばあちゃんっ」

ぎゅっと抱きつけば温かくて、その温度に涙が浮かぶ。結局、高東さんと二人きりで老人ホームの駐車場に着いてしまった直後に木村さんからかかってきた電話は、おばあちゃんが近くの山の中で見つかったという連絡だった。ろくに詳しい話も聞かずに慌てて車から降りた私は、この部屋まで数年ぶりの全力疾走をした。

「つーちゃん、どうして泣いてるの? 何か嫌な事でもあったのかい?」

ず、と鼻を啜れば、おばあちゃんがティッシュ箱をこちらに差し出す。それを受け取って、私は無理矢理笑みを作った。

「ううん。何でもないよ」

彼女はもう、分からないのだ。ここを抜け出したことも、山に行ったことも、頬に傷があることも。……その、全ての理由も。だから責めたり怒ったりするのは違う。認知症とはそういうもので、おばあちゃんは何一つ悪くない。

「つーちゃん、おみかん食べる?」

「……うん、食べる。ありがとう」

枯れ枝のような、簡単にぽっきりと折れてしまいそうな手からそれを貰って、皮を剥く。食の細くなったおばあちゃんのために、みかんを一粒ずつ自分と彼女の口に交互に運んだ。

たった一つのみかんを、半分こ。


「美味しいねぇ、つーちゃん」

「美味しいね、おばあちゃん」


カシャリ。不意に響いた音に部屋の入り口に目をやれば、そこには案の定、カメラを構えた高東さんが立っていた。


「あらぁ、つーちゃんの旦那さんかい?」

「おばあちゃん、私まだ結婚なんてしてないよ」

「はて、そうだったかねぇ?」

「初めまして、高東です。記念に一枚、どうですか」

胡散臭い営業スマイルを浮かべてカメラを向ける高東さんに、おばあちゃんは嬉しそうにほろりと笑った。
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