カメラマンと山小屋はよく似合う

− 束の間の −

「あっ、ちょ、高東さん! それまだ早いです!」

「あ? 食えりゃ良いだろこんなもん」

「だめですってば! 牡蠣(かき)ですよ!? ちゃんと火を通さないと!」

おばあちゃん家に帰ってきた私と高東さんは、二人で鍋を囲んでいた。今日のお礼に何かしたいと言った私に、彼が晩ごはんを要求したからだ。本当はもっとちゃんとしたお礼がしたかったけれど、高東さんはここのところ引っ越し作業とかで忙しくて、まともな物を食べられていなかったらしい。

それなら……、と二つ返事で承諾して、頭の中に思い浮かべた、冷蔵庫で出番を待つ食材たち。ぱっと思いついたのが鍋だったのだけど、高東さんはそれになかなかの食いつきを見せてくれて。

「鍋、好きなんですか?」

「ほふほいへはまふなへひゃほ」

「何言ってるか全然分からないんですけど……」

「ああ?」

「いやそこ怒られても」

熱い豆腐をほふほふと口いっぱいに放り込んで、彼は間髪入れずに肉を取る。

「んぐ、……だから、冬と言えばまず鍋だろって」

「ああ、まあそうですね」

スーパーでよく売っている鍋用のダシは買っていたし、牡蠣も近所のおじちゃんに貰ったもの。食材を切ってぶっ込むだけの料理でこんなに喜んでくれるなら有難い。正直私も、毎日一人でそろそろ参っていた所だ。

向かいに座るヒゲ面はよく見れば男前の部類のようだし、思わぬご近所付き合いが出来たと喜んだ。


初めに撮られた写真の事も、凍傷になりそうだと心配したつま先の事も、すっかり頭の中から抜け落ちて、……そして。







次の日の朝、おばあちゃんが亡くなった。
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