カメラマンと山小屋はよく似合う
− バルコニー −
目が覚めて、眠ってしまったのだと気付いた。私を抱きしめるように眠る高東さんと、幾重にも折り重なる掛け布団。ここで紳士的にベッドへ運んでくれていないところが、何とも高東さんらしかった。
壁に掛けられた時計は午前五時半を指していて、室内がほんのり明るいのも頷ける。彼の腕と重い掛け布団からするりと抜け出し、バルコニーに面したカーテンを軽くめくった。
「ん、」
「あっ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
「……いや」
その場で胡座をかいてがしがしと頭を掻く彼は、窓際に立つ私をはたと見る。そしてその瞳が、次第に強い意志を持ったものに変わっていって。今の今まで眠っていたとは思えないほどの力強さに、私の背筋はぴんと伸びた。
「な、なんですか?」
「あんた、そこのバルコニーに思い出があるって言ってたよな」
「え、まあ、はい」
「出たいのか?」
出たい、とはつまり、このバルコニーにって意味だよね?
彼の意図も掴めぬまま、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
顔を出しかけた朝陽と、未だやむ事のない粉雪と、白に染まったままのバルコニー。
思い出の中の景色とは違うけれど、つい先日此処まで意地になって足を運んだのも、このバルコニーを一目見るためだった。人の物になってしまったから、急に名残惜しくなって。そこに立つ事が出来なくとも、せめて見る事が出来ればと。
「頼みがある」
「え?」
高東さんは私の返事も聞かずに立ち上がり、もう一度真っ直ぐに私を見つめた。
「撮らせてくれ。今のあんたを」
***
重厚な一眼レフのレンズ越し、前髪を掻き上げた高東さんにどきりとした。
すっと通った高い鼻すじ、薄い唇、気怠げに垂れた目元を、キリリと男らしい眉毛が調和する。よく見れば男前だとは思っていたけれど、髪を上げて髭さえ剃れば、33どころか20代後半にも見えるだろう。
そして何より、その瞳。陽の光を受けて透ける両目はグレーが混じり、思わず覗き込んでしまいたくなるほどに凛として。
それに加え高い背丈に服の上からでも分かる筋肉質な締まった体。撮られる側ではなく、撮る側なのが不思議なくらいだ。
「いいぞ」
「あ、はい」
アングルを決め、ピントを合わせた彼が小さく頷く。見惚れてしまっていた事に、そこで初めて気が付いた。慌てて頷き返して素足のままバルコニーに一歩足を踏み出せば、すぐに後ろからシャッター音が聞こえ始めて。
壁に掛けられた時計は午前五時半を指していて、室内がほんのり明るいのも頷ける。彼の腕と重い掛け布団からするりと抜け出し、バルコニーに面したカーテンを軽くめくった。
「ん、」
「あっ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
「……いや」
その場で胡座をかいてがしがしと頭を掻く彼は、窓際に立つ私をはたと見る。そしてその瞳が、次第に強い意志を持ったものに変わっていって。今の今まで眠っていたとは思えないほどの力強さに、私の背筋はぴんと伸びた。
「な、なんですか?」
「あんた、そこのバルコニーに思い出があるって言ってたよな」
「え、まあ、はい」
「出たいのか?」
出たい、とはつまり、このバルコニーにって意味だよね?
彼の意図も掴めぬまま、ゆっくりと窓の外に視線を向けた。
顔を出しかけた朝陽と、未だやむ事のない粉雪と、白に染まったままのバルコニー。
思い出の中の景色とは違うけれど、つい先日此処まで意地になって足を運んだのも、このバルコニーを一目見るためだった。人の物になってしまったから、急に名残惜しくなって。そこに立つ事が出来なくとも、せめて見る事が出来ればと。
「頼みがある」
「え?」
高東さんは私の返事も聞かずに立ち上がり、もう一度真っ直ぐに私を見つめた。
「撮らせてくれ。今のあんたを」
***
重厚な一眼レフのレンズ越し、前髪を掻き上げた高東さんにどきりとした。
すっと通った高い鼻すじ、薄い唇、気怠げに垂れた目元を、キリリと男らしい眉毛が調和する。よく見れば男前だとは思っていたけれど、髪を上げて髭さえ剃れば、33どころか20代後半にも見えるだろう。
そして何より、その瞳。陽の光を受けて透ける両目はグレーが混じり、思わず覗き込んでしまいたくなるほどに凛として。
それに加え高い背丈に服の上からでも分かる筋肉質な締まった体。撮られる側ではなく、撮る側なのが不思議なくらいだ。
「いいぞ」
「あ、はい」
アングルを決め、ピントを合わせた彼が小さく頷く。見惚れてしまっていた事に、そこで初めて気が付いた。慌てて頷き返して素足のままバルコニーに一歩足を踏み出せば、すぐに後ろからシャッター音が聞こえ始めて。