カメラマンと山小屋はよく似合う
「つぐみ、もう良い」

肩を掴まれてはっとした。私に触れるその手は、当然おばあちゃんのものではなく。

大きくてごつごつした、高東さんの、男の人の手。

「足痛いだろ。お湯持ってくるから中で待ってろ」

「……え?」

「何ぼけっとしてんだ、バカ」

「あいたっ」

現実と思い出の狭間で揺れる私に、容赦のないデコピン一つ。くるりと背を向けて部屋に戻って行く彼の姿を見送って、キンキンと感覚を取り戻し始めた足先に、私も慌てて後を追った。





「おばあちゃんに、会いました」

温かいストーブの前でほっと息を吐き、高東さんが宣言通り持ってきてくれたお湯のはった洗面器に足を沈める。

「ああ、知ってる。見てたからな」

「え。私声に出してたんですか?」

「いや、ぼーっと突っ立ってたよ」

「なんだ、良かった」

「良くねぇよ。部屋ん中から何度声かけても全然反応しねぇし、おかげで俺の靴下まで濡れちまった」

「バルコニーに靴の一足も置いてないのが悪いんですよ」

「……全くお前は、ああ言えばこう言う」

大きく背伸びをして立ち上がる高東さんに、私はつんとそっぽを向いた。

本音を言えば、玄関まで靴を取りに行く時間を惜しんでまで、私の足を心配してくれた事が嬉しかったし、おばあちゃんに会った事を否定しないでくれた事にも救われた。

もっと言えば、昨夜の事だってそうだ。

けれど素直にこの気持ち伝えられないのは、高東さんがわざとそうさせない雰囲気を作っているからで。この間一緒に鍋を食べた時にも思ったけれど、彼は面と向かって人に感謝される事が苦手なのかもしれない。

不器用な人だな。

「っし。朝飯でも作るか」

「え、高東さんが?」

「あんた、男の一人暮らしを何だと思ってんだよ」

「だってこの前、簡単な鍋料理で大喜びしてたから」

「だから言っただろ、引っ越し作業で忙しかったって。別に作れないわけじゃない」

「へぇ」

そういえば昨夜のホットミルクには、贅沢に蜂蜜を入れてくれていたっけ。越してきたばかりで蜂蜜が置いてあるって事は、確かに料理が出来る人なのかもしれない。

「楽しみだな、高東さんの朝ごはん」

「おい、 誰があんたにも作るって?」

「え! うそ! 食べさせてくれないんですか!?」

「本当に図々しい女だな。夜分遅くに訪ねて来て、どんな神経してやがる」

「うぐ」

「……まあいいや。だったらその間に風呂でも入ってこい。流石に風邪ひくぞ」

「あ、そうですね。ついでに服も着替えないと」

「そのまま戻ってこなくてもいいけどな」

「残念でした! 速攻で戻ってくるのでご心配なく!」

べー!と舌を出して、洗面器から足を抜いた。



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