カメラマンと山小屋はよく似合う

− 迷い人 −

驚いた鳥たちがバサバサと木から飛び立った。静まり返る空気の中で、男の怒声だけが耳に残る。会社を辞めて、家に居づらくて逃げるように此処に来て、何もかもが上手くいかなくてイライラして。

八つ当たりに近かったのかもしれない。気持ちが冷えて、改めて見た男のカメラは素人目に見ても分かるほどに上等で。

謝罪しようと開いた口は、けれど言葉は出なかった。その代わりに未だ震え続けるスマホを取り出した。降ってくる視線は痛いくらいに鋭く、私は耐え切れずに背を向ける。素直に謝るには、こちらの不満も大き過ぎた。

「もしもし、相田です」

『ああ! つぐみちゃん!?』

良かった繋がった、と電話の向こうで息を吐いたのは、おばあちゃんがお世話になっている老人ホームの介護士さんだった。こちらに来てからはほぼ毎日通っていたから、おばあちゃんの担当の木村さんとは随分仲良くなっていた。

「どうしたんですか? そんなに慌てて」

『あのねつぐみちゃん。落ち着いて聞いて欲しいのだけど、』

早口で捲くし立てる木村さんに、私は理解するのが数秒遅れた。けれどそれはすぐに、男の視線すらも気にならなくなるほどの驚愕を私に運んだ。






「……え!? いなくなった!? おばあちゃんが!?」


その叫び声は、僅かに残っていた鳥たちをも、空の彼方へ飛び立たせた。
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