涙がこぼれる季節(とき)【完】
<佐伯美桜>


「今日、俺んちで、久々にアレ見ようぜ」


グランド整備も終わり、結衣と道具を片付けていると、悠斗が慌ててやって来た。


私たちにとって「アレ」とは。


5年前のK高対N高の県大会決勝――。


何度見ても、感動を与えてくれる試合のこと。




だから結衣と私は、今こうして、悠斗の家でビデオを見ているのだが。


「私たち、この時外野席で見てたんだよ。羨ましいでしょ」

「あ……ハイ……」


1年生の時同じクラスだったから、私は知っているが。


吉崎は女子も男子も関係なく接していたし、むしろ盛り上げ役のことが多かった。


そんな吉崎が、結衣の前では、まるで、借りてきた猫。


結衣を好きなことは、一目瞭然だった。


ふと、悠斗に目をやると、やけに納得したような表情を浮かべていた。


悠斗は、すでに感づいていたらしい。


いつも結衣と一緒の私でさえ、気づかなかったことを。



つまり、悠斗は結衣を、それだけ見ているということ。

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