涙がこぼれる季節(とき)【完】
「なんか、この、最後まであきらめないってとこが、ほんと、いいよね」


しみじみと涙ぐむ結衣の前で。


「うん、わかる。……初めて見たけど、マジ、感動した」


感動が緊張を超えたのだろうか、吉崎は初めて素を出した。


「でしょ~。これ見てから、私と美桜ちゃんの夢は、『K高のマネージャーになって甲子園に行くこと』なんだ~」

「……へえ」



「悠斗も、この試合がきっかけで野球始めたんだよね?」

「まあな」


当時、悠斗は小3のくせにやたらとオシャレで、髪型をものすごく気にしていた。


坊主頭なんて、考えられなかったはず。


地元の少年野球チームには坊主頭にしなければならないというルールがあって、サッカーチームにはなかった。


だから悠斗はサッカーを選んだのに、この試合の後、野球チームに入り直したのだ。


坊主頭にしてまで悠斗が野球を始めた理由は、野球の魅力に目覚めたから、なんていうことでは決してなくて。


結衣が野球部のマネージャーになりたいと言い出したから。


きっと、それが、正解。

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