『好き』と鳴くから首輪をちょうだい
僅かに安心した私を見て、梅之介が大きくため息をつく。


「あんなに忠告したのに、ホント、シロは馬鹿」

「う……」

「眞人に告白しようとした女たちがどういう対応されたか、見ただろ。なのに、馬鹿だよ」

「そ、それは知ってる。だけど、眞人さんのあの特別な優しさは反則だもん……」


いつも美味しいご飯を口に放ってくれて、笑いかけてくれて。
眠れないときには一緒に眠ってくれる。
私を安心させるように、腕の中にぎゅっと抱き留めて。
そして、困った時には必ず助けてくれる。

しかも、私だけ特別に。

そんな人を好きにならずにいられることが、どうやったらできるっていうの。
もぐもぐと言って俯いた私に、「まあ、それは分かるよ」と梅之介がため息交じりに言った。


「眞人さ、人嫌いなくせに僕たちに対しては異常なくらい甘いんだよな」


梅之介の言葉に頷く。
そうなのだ。
誰にでも同じように優しいのならまだ、そういう人なのだと思うことができただろう。
だけど眞人さんは、私と梅之介にだけ、とびきり優しいのだ。


「眞人さんに拾われた『飼い犬』っていう立場がキーポイントだとは、思うんだけど」

「まあ、そうだな。眞人に面倒を見てもらってるって部分がデカいのかな」


梅之介の言葉に頷く。私たちはきっと、眞人さんの庇護下にいるのだ。
だから、無条件に優しくしてもらえている。
私たちはきっと、出会い方や境遇が彼の心に触れたのだろう。


「眞人さんは、元々は人嫌いなんかじゃないよね」


きっと本来は、すごく優しい人なのだ。
ただ、何か理由があって、その優しさを人に向けたくないと思うようになった。


「なにか、理由があるんだよ。人に、必要以上に関わり合いたくなくなった、理由が」

「理由、か。あるんだろうなあ……」


梅之介が腕組みをして考え込む。


「梅之介は付き合いが長いじゃない。なにか分かんないの?」

「わっかんね。僕の事情はあいつに話したことあるんだけど、眞人は訊くばかりで自分の話したことなかったしなあ」

「ふうん」


そっか、と肩を落とす。梅之介が少しでも事情を知っていたら、答えに近づけるのに。
と、ふと気が付く。


「ねえ、梅之助の事情って、いつか私にも教えてくれる?」

「……まあ、いつか、機会があればな」


あんまり楽しい話じゃないんだよ、と梅之介は言った。
その口調は苦々しくて、私はまだ訊いてはいけないことだったと反省する。


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