婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
きっと葛城は後から追いかけてくるだろう。律儀に「駅まで送るよ」なんて言いながら。

だけど、今日のことは絶対許さないと心に誓っている。謝る余地なんてあたえるもんか。

近くの適当な植え込みにそっと姿を隠す。

私はノロマなので追いつかれるのは時間の問題だ。

だったら、このまま葛城の追跡をやり過ごした後にゆっくりタクシーでも呼べばいい。

きっとヤツは私の姿を探すだろう。

私が夜道を無事一人歩いて帰れたのか心配しながら一晩中罪悪感に苛まれるといい。

読み通りに葛城は玄関から飛び出してくると、そのままガレージへと直行した。

どうやら車で探しに行こうとしているようだ。

少しすると、シルバーの車が暗闇へ走り去って行った。

その様子を私は見送るとスマートフォンを鞄から取り出してタクシー会社へと連絡する。

葛城家の名前を言うと、直ぐに場所がわかったようだ。お迎えは20分ほどで来るらしい。

タクシーが来る間、身を隠しながらも出口へと向かう。

運よく今日は満月だったので、月明りで足元が見える程度に明るい。

黒い鉄格子の立派な門扉のところまで来ると、不意に夜道を照らすヘッドライトの灯りが見えた。

葛城の車だったら嫌なので木陰から様子を伺う。

近くまで来ると、山吹色に塗装された車体が姿を現した。

私は門扉の前に立ちブンブンと腕を振って自分の存在をアピールすると、タクシーは目の前に停車した。

後部座席が開くと慌てて乗り込む。「小森さんですか?」運転手さんに尋ねられて私はコックリ頷いた。

最寄りから一つ先の駅名を告げると、車はゆっくり発車する。

ポケットに入ったスマートフォンが振動したのでディスプレイを見ると葛城の名前が表示された。

今はその名前すら見たくない。

私はスマートフォンの電源を切った。
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