婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
タクシーを降りて、電車を乗り継ぎ鉛のような重い足を引きずりながら自宅まで帰る。

玄関のドアを開け「ただいま」と、言いうとリビングから母が飛び出して来た。

あからさまに泣き腫らした目をしている私を見てギョッとした表情を浮かべる。

「何かあったの?」

「…別に」私はボソっと呟く。

「別にって、匠くんから何度も連絡があったのよ?!それの葛城のご両親からも!」

ママは心配そうに顔を曇らせて尋ねる。

「ちょっと…喧嘩しただけ」

その答えに安心したのかママは「そう」と言って柳眉を下げた。

「葛城のご両親には私から連絡するわ。匠くんには貴方から連絡して起きなさい」

「わかった」と一言呟くと私は早足で階段を登っていく。

誰が電話なんかするか。

自分の部屋に戻ると後ろ手で鍵をかける。

灯りも点けず、そのままペタリと床に座り込むと、両目から大粒の涙が溢れた。

葛城は私を完膚なきまでに打ちのめした。

辛辣な言葉、怪訝な表情、疎む態度、彼の全てが私を傷付けた。

最初から解ってたじゃない。政略結婚なんて幸せになれないって。

それなのに、どうしてこんなに悲しくて苦しいのだろう。


…ああ、相手が葛城だったからだ。

私は恋をしていたんだなあ、と気づく。

きっと初めて会ったあの瞬間から、エレガントな彼に心を奪われていたのかもしれない。

だけど、其れを自覚するのは最悪のタイミングだ。

私は力なくドアに寄りかかる。

今日あった事は全て夢だったらいいのに。

泣きすぎて頭がボーッとする。もう涙を拭うのも億劫だ。

私の意識は徐々に遠のいっていった。
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