婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
男性三人衆は驚くほどよく働いた。

テキパキと段ボールの荷物を片付けて行く。

家具の配置なども、気付くことがあれば率先して改善の提案までしてくれた。

美しく優秀な部下を持ったようで、ちょっとだけ気分がいい。

「どうだー進んでるかー」

小一時間ほど経った頃、パパが離れにひょっこり姿を現したが、私の少ない荷物は既に片づけられた後だった。

「もう、手伝いは大丈夫そう」

「そうか、さすが若い人たちは違うなぁ」パパは呑気な口調で言うと手招きして、私を外に連れ出す。

「これ、とっておきなさい」茶色い封筒を私に差し出す。

中を開くと一万円札が沢山入っていた。おそらく何十万円かはあるだろう。

「どうしたのよコレ?!」

私はギョッとしてパパを見つめる。

「支度金だ。少ないどな」

パパは恥ずかしそうにテヘっと笑う。

「何かあった時のためにとっておきなさい」

借金で首が回らないパパがこれだけのお金を集めるには大変だったと思う。

「ありがとうパパ」

私は思わず目頭が熱くなってしまった。

「お礼を言うのはパパの方だよ。家族を守るために遥には随分苦労をかけている」

「まぁ確かにね」私は目をぐるりと回す。

「最初は政略結婚なんてふざけんなって思ったけど、今は、その、匠さんと出会えてよかったって思ってる」

照れて真っ赤になっている私を見てパパは目元を綻ばせた。

「こうなったのもきっと何かのご縁かもしれないな。匠君と幸せになれるよう頑張りなさい」

珍しくパパが親らしいことを言ったので私はこっくり頷いた。

「でも、辛くてどうしようもなかったらいつでも帰って来ていいんだからな。その時はパパが何とかするから…多分」

「大丈夫だよ…多分」

お互い「多分」って言うところが頼りない。私とパパは顔を見合わせて笑った。
< 177 / 288 >

この作品をシェア

pagetop