婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「それじゃあ、匠くん、私はもう行くよ」パパは一旦玄関まで戻ると、和室でテレビの配線を繋いでいる葛城に声を掛ける。

「何のお構いもせず申し訳ありませんでした」葛城は作業を中断すると、玄関まで見送りにきた。

「それじゃ、遥をよろしく頼むよ」パパは葛城の腕をそっと叩いた。

「はい」葛城も神妙な面持ちで頷く。

「じゃあ、何かあれば連絡しなさい」と言い残して、パパは軽トラに乗って帰っていった。

私はコートもはおらず表に出ると車の姿が見えなくなるまで見送った。

パパ…行っちゃった…。

パパもママも双子達もいない生活が始まるのだと改めて実感し、私は物凄い寂寥感に襲われる。

「遥」肩に手を置かれて私はビクリと身体を強張らせる。

「大丈夫だよ」と言って、葛城がにこりと微笑む。

「うん」私は不安を隠すように葛城の上着の袖をギュッと握りしめた。

泣いたら恥なので口を横にきゅっと結んで何とか堪える。

葛城は我慢しているのを見透かしたようにそっと私を抱きよせた。

人肌が心地よくて私は胸に顔を埋めると葛城は優しい手つきで頭を撫でてくれる。

「寂しくなったら直ぐに会いに行く…ほら、近いし」

私は腕の中で泣きながらクスクス笑った。

「平気だよ。匠さんも忙しいだろうし」

葛城は顔が見える位置まで身体を引き離す。

「遥、たまには甘えてよ。我がままもいって」

「匠さん」アーモンドアイが私をジッと見つめる。

あ、なんかちょっといい雰囲気かも。

葛城がゆっくりと顔を近づけてきたので私はそっと目を閉じた。

「おいおいおい、イチャついてないでさっさと片づけしろよ」

声を掛けられてはっと振り向くと、玄関の扉の所にニヤニヤした藤原と無表情の田中が立っていてこちらをジッと見ている。

葛城は邪魔が入り忌々しそうに舌打ちをした。
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