婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
作業が終わり炬燵でお茶を飲みながら一休みする。

ちなみにこの炬燵は離れの倉庫にしまってあったのを藤原が引っ張り出してきた。

田中がテーブルの上に顎を乗っけて「腹が減った」とボソリと呟く。

「じゃあ、轟さんに何か用意してもらうかー」匠さんがスマホを取り出したが「ちょっと待って!」と言って私は制止する。

「よかったらお鍋でもしない?三人に引越しを手伝ってくれたお礼がしたいな」

「俺は轟さんのご飯がいい」

田中はキッパリ言う。

清々しいくらい空気を読まない男だ。

「まあまあ、そう言うな。お前、女の子に手料理作ってもらったことなんて殆どないだろ?貴重な体験じゃないか」

藤原が嗜めてくれる。

「俺より料理が上手い女なんて早々いない。そもそも鍋って手料理のうちに入んのか?」

「冬にみんなが集まった時に食べる定番料理じゃなーい!」

私は苦しい言い訳をする。

「鍋なら切って煮るだけだから簡単だし、それなりに料理に見えるよね!っていう誤魔化しじゃないか?」

田中は手料理に自信がない女子の心理を的確に指摘して来る。

「そうだ!燁子さんも誘ってみる?そろそろ帰って来る頃だし!やっぱり鍋は大勢で食べる方が美味しいよね!」

しつこい田中の追求を交わそうと、私は其れとなく話題を変えてみた。

「燁子は今日は帰りが遅くなると思うぞ。デートだから」

しかし、匠さんにあっさりと却下される。

それにしても燁子さんに彼がいたとは初耳だ。

「じゃあ、匠さん、夕飯はみんなこっちで食べるって轟さんに連絡してもらえる?」

私は田中の意向を無視して強引に話を進める。

「はーい」葛城は億劫そうに返事した。

それから、夕飯の材料を買いに行くのに車出してもらうようお願いすると、匠さんは「えー」と言って、すっごく面倒臭そうな顔をした。

「バイト君たち、頼む」

匠さんはゴリ押しスマイルを田中と藤原へ向ける。

パパと別れた後の感動的な一コマは、私が見た幻覚だったのだろうか。

バイト二人はどっちが行くかでジャンケンすると、田中が負けた。
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