婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「稜、宜しく頼んだぞ」

匠さんが車のキーを放り投げると、田中はすっごく嫌そうに顰めっ面をしてキャッチした。

「全く匠は人使いが荒い」

田中はプリプリ怒って車の運転席に乗り込んだ。

どうしよう…私、田中が超苦手だった。

二人きりになって今更ながらハッとする。

「えーと、田中さんって彼女いるの?」

「いない」はい、会話終了。

気持ちが折れて私は黙り込む。

道中、車内はお通夜のようにシンと静まりかえっていた。

近所の大型ショッピングセンターで田中とカートを押して新婚さながら買い物をする。

本当だったら匠さんと『なにが食べたい?』なんて言いながら食材を選びたかった。

「白菜はマストだな。触感が楽しめるよう水菜もかっておくか。肉はやっぱり鶏肉だろう。鶏挽肉も買って、あとでつくねにしよう。」

田中は私の意見はまるで無視してテキパキと買い物カートに商品を入れて行く。

途中の冷凍コーナーに立ち寄ると、何食わぬ顔でアイスクリームをどかどかっとカートに入れる。

「ちょっと!何どさくさに紛れてアイス入れてんのよ!しかも1個200円以上する高いアイスじゃない?!」

「今日は割引セールで三個以上纏めてかったら一個198円だ。そもそもお前、頑張った俺たちのために200円のアイスを買ったくらいで目くじらをたてるなんて、どれだけ狭量なんだ?!大企業の奥さまになる女とは思えないな」

ホントに口の減らない男で腹が立つ。

結局、食材は殆ど田中が決めてしまった。

鍋の味つけも私は塩ちゃんこがいいって言ったのに鍋つゆを買うのは手抜きだと言って大量の調味料を買うはめになった。

財布はスッカラカンだし、両手に重い荷物を二人で抱える羽目になった。

あの時、匠さんがついて来てくれなかったことを本当に恨みがましく思う。

アイス、しかも高いヤツ、を買ってもらいご機嫌な田中は帰りの車ではいつもより饒舌だった。
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