婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
葛城邸に戻りガレージに車を止めて、大荷物を抱えながらヨロヨロと車から降りると、車のヘッドライトがこちらに近づいてきた。

本宅の前で一台のタクシーが停車する。

中からスラリと背の高い女性が降りて来た。

「燁子さん!」私は荷物を抱えたまま声を掛ける。

燁子さんは私の声に気がついたようでこちらを振り向く。

真っ白なロングコートが長い黒髪によく似合っている。

「遥ちーん!」燁子さんはニコニコしながらこちらに向かって走ってくる。

が、高いヒールの靴を履いていたので途中でよろめき転びそうになる。

「危ない!」私が声を上げた瞬間、田中が咄嗟に腕を伸ばして燁子さんを受け止めた。

田中の手から買物袋が離れ、大量の食材が地面に転げ落ちる。

「大丈夫?!」私は慌てて声を掛ける。

「やだーもう、ありがとうございますぅ」燁子さんはテヘっと笑い、顔を上げた瞬間、表情が固まった。

田中が美形だから驚いているのだろうか。いや、うっとりしている感じではない。どちらかと言うと怯えてる感じだ。

「す、すみませんでした」燁子さんは強張った表情のまま慌てて身体を引き離す。

「いや…」田中も珍しく控えめだ。いつもなら「そんな高い靴履いて走ってるからだろ」くらいの嫌みはかますだろう。

私達は屈んで食材を拾い集めビニール袋に戻す。

「遥ちんのお引っ越しって今日だったんだね。知ってたらお手伝いしに行ったのに、匠ちゃんから用事を頼まれちって、ごめんね」燁子さんはしょんぼり肩を落とす。

「あれ?今日デートじゃなかったの?」燁子さんはプルプルと首を横に振る。

「匠ちゃんの代わりに取引先のパーティーに行って来たんだよ」燁子さんは不満気に頬を膨らませる。

葛城さん、どうしてあんな嘘ついたのかな。なんだか少し腑に落ちない。

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