婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
葛城は私を肩から降ろすと、有無を言わさず助手席に押し込める。

急に覆いかぶさってきたので、驚いた私は気の昂ったネコのようにジタバタ暴れる。

「ちょっと何すんのよ!このスケベ!」

「シートベルトつけてるんだよ」葛城は冷静に答え、ベルトの金具をカチリと差しこんだ。

「あ、ありがとう」勘違いしたバツの悪さで私は大人しくなる。

「どういたしまして」葛城はそのままの体勢で、私の顔を覗きこむ。

その目に見つめられると金縛りにあったかのように身体が動かなくなる。ゆっくりと顔を近づけてきたので身を固くして目をギュッと瞑った。

「酒臭い」

「へ?」

「ったく、どんだけ飲んだんだよ、未成年のくせして」呆れたようにスッと目を細めると、そのまま身体を起こし助手席のドアを閉めた。

キス…されるかと思った…。私の心臓が早鐘のように打つ。

呆然としていると、運転席側のドアが開いて葛城がするりと乗り込んで来た。

「葛城さんって車運転出来るのね」

「21歳だから免許くらい持ってる」その横顔にはいつもの愛想笑いはない。

「あっれー、もしかしてご機嫌斜め?」私はヘラヘラ笑いながら尋ねる。

「あったり前だろ?!誰のせいだと思ってるんだ?!」葛城は眉を吊り上げて怒っている。

「いやーん、怖いー」その様子が可笑しくて私はケラケラ笑ってしまった。

葛城は呆れたように肩で大きく溜息をつくと「あんまり心配させんな」と言って私の頭をワシャワシャと撫でた。

なんだかその手の感触が不思議と心地いい。

「ごめんねーたくみー」私は思わず頬を緩めてしまう。

「…ツンデレか?」葛城はアーモンドアイを大きく見開いている。

「ツンデレ…?なに…それ…美味しいの?」私はクワっと大きな欠伸をする。

「いや、ツンデレっていうのはな…」葛城が何か一生懸命説明している。

私は形の良い唇が動いているのをうっとりと眺めていた。


これが、この日残された最後の記憶。






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