婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「今度バイトの人と飲み行く時は気をつけろよ」葛城がぶっきらぼうに言う。

その台詞に、一瞬わが耳を疑った。

「え、それってバイト続けてもいいって事?」私は期待で目を輝かせ、葛城の腕を掴む。

葛城は無言のまま首を縦にふった。ホント渋々って感じだけど。

「昨晩はあそこまで拒絶されて正直ちょっと傷ついたぞ」葛城は恨みがましい視線を向ける。

「色々ありがとう、貴方」私はニッコリ笑みを浮かべる。

「じゃあ、ちょっとだけ抱っこさせて」葛城は肩に手を回し、私を抱き寄せた。仄かに上品なシトラス系のコロンが香る。

せっかくお許しを得たのだから気が変わらないようにと、腕の中で大人しくうずくまる。

細いと思っていたが、葛城の胸は引き締まっていて意外にも筋肉がしっかりついている。

ドキドキするんだけど、腕の中の温もりが心地よくて、ずっとこのままでいたいような不思議な気分だ。

何なんだろう、この感じは。

昨日、本命の彼女と一緒にいた光景がフト頭を過った。

あの人の事もこんな風に抱きしめるのかな。そう思うと胸の奥がキリっと痛んだ。

なんか…嫌だな。

私は恐る恐る葛城の腰に手を回してギュッとしがみ付いた。それに応えるよう葛城も抱きしめる腕に力を込める。

まだ、あの人のことは怖くて聞けないや。

聞いたら、この温もりが遠くへ行ってしまいそうな気がする。

漠然とした不安を振り払うよう、葛城の胸に顔を埋めた。

「遥、可愛い。押し倒していい?」

「絶対やめて」私はキッパリお断りする

その時、勢いよく部屋のドアが開いた。
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