初恋 二度目の恋…最後の恋
 たくさんの人が乗っているエレベーターの中で緊張しながらもスムーズに挨拶できるように何度も何度も考えてきた言葉を繰り返す。口には出せないけど繰り返す。


『東京北研究所から来ました。坂上美羽です。わからないことが沢山あるのでご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします』



 どこに配属されても自己紹介の挨拶くらいはしないといけないだろう。そう思うと緊張してしまう。人前で話すのは苦手。出来れば上司が紹介してくれて私は一言だけでよければいいと思う。



 でも、そうじゃなかった時に備えて挨拶の練習をする私は小心者だ。これから一緒に働いていく人たちにいい印象を持ってもらいたいと思うのは私だけじゃないだろう。研究所から本社勤務は私だけで、静岡研究所に行かなかった他の研究員は他の支社に移動になっている。だから、ここに私の顔見知りは誰も居ない。


 だから、緊張する。
 誰かと一緒ならよかったのにと思ったけど、それさえも叶えられない。


 第三会議室はエレベーターを降りるとすぐだった。エレベーターを降りて廊下に並ぶドアの一つに『第三会議室』というプレートがはめ込まれているのに気付いた。


 目の前にあるドアの前で大きく深呼吸してからノックをしてみる。耳を澄ませてみても中から音はしない。


 もう一度ノックしてから静かにドアを開けると、そこは誰も居なかった。


 会議室というだけあって…。


 長テーブルとパイプ椅子が並んでいるだけだった。
< 10 / 303 >

この作品をシェア

pagetop