初恋 二度目の恋…最後の恋
 折戸さんは私の心の奥底にある気持ちを引き摺りだす。お祖母ちゃんの亡くなった今、私が東京にいる理由はない。でも、自分から転属を決めたのに、急に研究職に戻るなんて虫が良すぎる。でも、なんで折戸さんは急に中垣先輩から送って貰っている資料の話をするのだろう?


 折戸さんの意図が分からない。


「俺さ、来月の初めにはフランスに行く」


「え。そんなに早いのですか?」


 海外赴任は準備もあるだろうから、もう少し時間は残されていると思っていた。でも、そうじゃなくて…折戸さんと一緒に仕事が出来る時間はもう殆どないのに等しい。自分の持っている担当の引き継ぎをしたらすぐにフランスに行ってしまうのだろう。


「そんな顔しないでよ。フランスに行けなくなる」


 行って欲しくないという気持ちが表情にも表れているのだろう。一緒にずっと仕事をしていきたいと思う。もっと一緒に働いて、もっと仕事を教えて貰いたかった。でも、時間は残されていない。


「海外赴任は栄転です。だから、折戸さんのことを思うと喜ばないといけないのは分かっているんです。でも、あまりにもいきなり過ぎて混乱します。とっても寂しいんです。」


「美羽ちゃんは本当に素直でいい子だね」


 そういうと折戸さんはビールの入ったジョッキを傾けると形のいい唇に消えていく。琥珀色の炭酸は少しは折戸さんを酔わすのだろうか?折戸さんはゆっくりと息を吐いてから私の方を見つめたのだった。


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