初恋 二度目の恋…最後の恋
「フランスに連れて行きたいと思ったのも本当。正直、美羽ちゃんなら強引に落とすことは出来たと思う。それなりに恋愛経験を積んできたからね。でも、そんなことはしたくなかったんだ。美羽ちゃんの前では誠実な男でありたいと思ったんだよ」


「折戸さんは誠実だと思います。とっても優しいし一緒に居て楽しい。でも…」


 私がそういうと、折戸さんはいつもの優しく穏やかな微笑みを私に向けるのだった。その綺麗な笑顔に心臓はきゅんと音を立てたけど、それを胸の奥にそっとしまう。


「美羽ちゃんは幸せになって欲しい。真っ直ぐな美羽ちゃんがとっても好きだよ。でも、フランスから帰ってきて、もしもフリーだったらその時は本気で落とすからね。その時は俺のことももう一度考えてみて」


 泣きそうになる優しさに私は微笑みで返す。そんな私を見ながら折戸さんはもう一度シャンパングラスを手に持ったのだった。


「美羽ちゃんのこれからの幸せに」


「折戸さんのフランスでの活躍に」


 そんな言葉を重ねて、シャンパングラスを重ねたのだった。



 シャンパンの芳醇な味が口に広がる頃に、頼んだ前菜が届けられた。折戸さんが一番最初にこの話をしてくれたのは今からの最後の食事を楽しいものにするためだと思う。


 私は折戸さんの思惑通り最後のデザートまで楽しい時間を過ごすことが出来た。プロポーズを断ったのに、こんな風に楽しく食事が出来たのは折戸さんの包容力と優しさからだろう。
 

 初めて会ったときから優しくて、今も優しい。そして、ずっと優しいだろう。


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