初恋 二度目の恋…最後の恋
「ご馳走様でした」

「うん。美味しかったね。それに楽しかった」


 折戸さんとレストランを出てエレベーターに乗りながら込み上げる寂しさに胸が痛いと思った。付いて行かないと決めたのは自分なのにこれが最後と思うと寂しい。折戸さんは明日の木曜日の出勤を最後にフランスに向かう。本来なら今日までの仕事だったのに、明日も少し仕事をするという。


 そして、夜は高見主任と一緒に食事に行くらしい。だから、私と一緒に食事をするのは今日が最後なのは間違いない。寂しいと思っている折戸さんは私の方を見つめるとまた穏やかに微笑んだ。



「美羽ちゃん。俺はフランスに行くけど、ずっと行っているわけじゃない。たまには日本に帰ってくる。だから、俺がフランスから帰ってきたら日本食の店に行くの付き合ってよ。多分、あっちに行ったら日本食に飢えるかもしれない」


「もちろんです」

「うん。美羽ちゃんは笑っていた方がいい」


 そういいながら、私の頭をぽんぽんと撫でる。私に笑顔をくれているのは間違いなく折戸さんだ。さっきまでの寂しい思いが少しだけ消えていく。全く消えることはないけど、それでも少しだけ笑うことが出来たのだった。

 
「日本に帰国する時は教えてくださいね。」


「ああ。もちろん。フランス訛りの日本語を披露するよ。」


 タクシーでマンションまで送って貰うと、私は頭を下げる。こんな優しい時間をくれた折戸さんに感謝の気持ちでいっぱい。


 楽しい夜だった。


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