初恋 二度目の恋…最後の恋
 折戸さんはいつも通りに穏やかさで私と小林さんを見つめている。今からフランスに行くというのが信じられないほどの余裕で折戸さんはテーブルの上に置いてあるメニューを小林さんに手渡したのだった。すると小林さんはそれを開かずに…。


「俺はコーヒーで美羽ちゃんはオレンジジュース。選んでいる時間が勿体ないし」


「蒼空らしいな」



 そういいながら、折戸さんはコーヒーとオレンジジュースを注文してくれたのだった。折戸さんは読んでいた新聞を畳むと、私と小林さんに向かって嬉しそうに微笑んだ。



「来てくれて嬉しいよ。美羽ちゃん。そして、蒼空もありがとう」


「でも、あの。来ないで欲しいと言われたのにすみません」


 折戸さんは私を見つめ綺麗な微笑みを零す。そんな綺麗過ぎる微笑みはやっぱり優しすぎると思ってしまう。


「フランスに行きたくなくなるかもしれないと思ったから来ないでいいと思ったけど、でも、今、二人が来てくれて嬉しいと思う。元々、希望していたフランス支社だから、精一杯頑張ってくるつもりだよ。だから、美羽ちゃんも蒼空も仕事に頑張って欲しい」


 それは私に静岡研究所でも頑張れと言ってくれる。自分が選んだ道が間違いじゃないと教えてくれているように思えた。最後の最後まで折戸さんは優しい。

 
 少しの話をしてから折戸さんが携帯を見てニッコリと微笑んだのだった。


「もう時間だ。わざわざ来てくれてありがとうね」

 
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