初恋 二度目の恋…最後の恋
「決心が変わらないなら、私から本社に頼んであげるよ。坂上さんは真面目だからどこに行っても大丈夫だと思う。頑張るんだよ」


「ありがとうございます」


「いつでも戻って来れるように席は残して置くから。」



 優しい言葉だと思ったけど、それに甘えてもいけないとも思った。私が研究職に戻れる日は二度とないと思っている。だから、新しい転属先で…頑張るしかない。そう思った。自分の気持ちに落ち着かせる時間さえないくらいに研究所は慌ただしくなっていく。そんな研究所で私は最後の最後まで研究に没頭したのだった。


 転属願を出して、そう一週間が過ぎた頃のこと。私は所長に呼ばれ新しい職場となる転属先が伝えられた。転属先は『本社』だった。でも、どこに配属か分からないので、転属当日に本社の第三会議室行くように言われた。



 そんな研究所長の言葉に私は頷きながら頑張るしかないと思っていた。


 東京北研究所が閉鎖された二日後、私は本社に向かっていた。


 一週間前の天気予報ではいいお天気だとテレビでは言っていたのに、次第に怪しくなる空の鉛色が落ちてきそうだ。心が重く、足取りも重いこんな日は綺麗な空を見ながら出勤したいと思う微かな願いさえも届かない。



 私のマンションからは研究所よりも本社の方が近い。最寄駅から歩いて五分の好立地に聳え立つ本社は前面ガラス張りで圧迫感を感じる。研究所の緑に包まれた空間じゃないのは分かっていたのに、目の前にすると足が止まる。



 本社に来たのは入社式の時以来だった。あまりの綺麗なロビーに驚いた記憶が蘇る。あの時はしばらく来ることはないだろうと思っていたけど、一年と少し経った今、ここに毎日通うようになるとは思わなかった。

< 8 / 303 >

この作品をシェア

pagetop