強引男子にご用心!
気持ちが揺れ動くか……と、言われれば、ゆらゆらしてる。
だけれど、綾瀬くんの事が好きか……と、聞かれれば、そうじゃないと言える。
あくまで綾瀬くんは“好きだった人”だから。
だけど、きっと……
私と付き合ったから、傷ついた人でもあって。
根本にあるのは、きっと罪悪感だと思うの。
そしてやっぱり後悔。
だって、今は磯村さんに触られても平気になっているんだもの。
他の人はまだ逃げてしまうけれど、きっと磯村さん相手なら自分からも触れる。
今は触れて、昔は触れなかった。
“好きなんだろう?”って、何回も聞かれた。
“好きなのにどうして逃げるのか”って、何度も言われた。
言われて、嫌な顔をされるようになって……
時が経てば、忘れていくものだと思っていた。
時間が経てば、記憶は薄れて、埋没していくものだと思っていた。
だけど、案外違った形で覚えているもので……。
一瞬一瞬の表情や、その時その時の言葉が……
…………。
「……………それで、私はどうして磯村さんの部屋にいるんでしょう」
クッションを抱きしめ、ソファーに正座している。
そんな私を見ながら、とてもとても爽やかに……もとい、胡散臭い笑顔でテーブルにデリバリーピザを置いている磯村さん。
……無駄にキラキラしてる。
「それはだ。会社帰りに拉致って、無理矢理タクシーに突っ込んで、気を失ったからそのまま部屋に連れてきたからだな」
それは犯罪ですから。
「考える時間をやるのは認めたが、一人にするつもりはねぇよ」
考えるのって、普通一人で考えるものじゃないかしら。
違うのかしら。
違わないよね?
私の認識は間違っていないよね。
「どーせ、お前が一人で考えたところでウジウジ後ろ向きになるだけだろうと判断した」
いや。判断されても困るんだけれど……。
間違いなさそうな判断力だと思う。
「意地悪い……」
「まぁな」
認めるんだ。
そこ、認めちゃうんだ。
「そもそもそういう男だって事は、知ってるだろうが」
うん。まぁ……知っている、ね。
でも、優しいのも知ってるな。
「いいから食えよ。昼だってろくに食ってないんだし」
そう言いながら、ピザを一切れ取って、テレビを見ながら食べ始める。
……黙々と食べている。
食べている横顔を見ながら、手を洗いに行った。
キッチンと洗面所に置かれた除菌用の手洗い石鹸。
いつも置かれている真新しいタオル。
毎日ではないけれど、定期的に代えられてるソファーカバーにクッションカバー。
……癖の域は越えているであろう、細々とした些細な事柄。
何も言わないけれど、気づかないわけがない。
そういう事が出来ちゃう男。
「華子」
「うん?」
「俺は女を泣かすのは好きだがな」
ちらっと目があって、不機嫌そうな顔をされた。
「自分の女が他の男に泣かされんのは許せねぇぞ」
「…………」
言われて、自分が泣いている事に気がついた。