強引男子にご用心!

「じゃあ、磯村さんが悪い」

「なんで」

「だって、私を甘やかすから」

「冷たくされたいのか。奇特な奴だな」

そういうわけじゃないんだけど。

手を洗って、タオルで拭いて、ついでに涙も拭いてから、ソファーに座って温かそうなピザを眺める。

デリバリーピザを食べたことはない。

思えば、磯村さんと会ってから、初めて尽くしだ。

「磯村さんて、当たり前みたいな顔で、色々な事を気づかってくれてるよね」

「そんな恩着せがましいことはしてねぇよ」

怒ったようにそう言って、それからまたピザを一切れ取って、テレビの方を向く。


なるほど。


……一緒にはいるけれど、放っておかれているみたい。


またピザを眺めて、試しに一切れ素手で取る。

それから口に運んで、一口食べてみた。

「……美味しい」

「つーか、店の味だな」

「お店のは、味が濃いのね」

「……だな」

テレビを見ながらの磯村さん。

放っておいてくれているけれど、話しかけたら答えてくれる……みたい。


そう言えば、前にもこんなことがあったな。

あの時も、きっと磯村さんは“待っていて”くれたんだろう。
結果、しびれを切らして拉致られたけれども。

黙々と2枚のピザを食べ、ベトベトになった指先をじっと見ていると、コトンとテーブルに除菌用ウェットティッシュを置かれた。

「ありがとう」

「……素手で食えたな」

「うん。磯村さんて結構食べるね」

「飲みじゃねぇしな」

指先を拭いて、テレビを見ている横顔を眺める。

イケメンだよね。

普通にイケメン。

こんなイケメンが、どうして私を選んだろう。

他にもたくさんいるだろうに。
たくさんいて、恐らく選び放題だっただろうに。


「何か飲むか?」


どことなく難しい顔で振り返られた。


「……何かあった?」

「ビールくらいしかねぇな」

「少し飲む?」

「少しなら大丈夫だろ」

「じゃ、持ってく……」

「いい。座ってろ」

立ち上がって、冷蔵庫からビールを2缶持ってきてくれた。

プシッと小さな音がして、ビールを飲む……やっぱり横顔。


鬼畜で、口が悪くて、たまに優しい磯村さん。
< 150 / 162 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop