強引男子にご用心!
「じゃあ、磯村さんが悪い」
「なんで」
「だって、私を甘やかすから」
「冷たくされたいのか。奇特な奴だな」
そういうわけじゃないんだけど。
手を洗って、タオルで拭いて、ついでに涙も拭いてから、ソファーに座って温かそうなピザを眺める。
デリバリーピザを食べたことはない。
思えば、磯村さんと会ってから、初めて尽くしだ。
「磯村さんて、当たり前みたいな顔で、色々な事を気づかってくれてるよね」
「そんな恩着せがましいことはしてねぇよ」
怒ったようにそう言って、それからまたピザを一切れ取って、テレビの方を向く。
なるほど。
……一緒にはいるけれど、放っておかれているみたい。
またピザを眺めて、試しに一切れ素手で取る。
それから口に運んで、一口食べてみた。
「……美味しい」
「つーか、店の味だな」
「お店のは、味が濃いのね」
「……だな」
テレビを見ながらの磯村さん。
放っておいてくれているけれど、話しかけたら答えてくれる……みたい。
そう言えば、前にもこんなことがあったな。
あの時も、きっと磯村さんは“待っていて”くれたんだろう。
結果、しびれを切らして拉致られたけれども。
黙々と2枚のピザを食べ、ベトベトになった指先をじっと見ていると、コトンとテーブルに除菌用ウェットティッシュを置かれた。
「ありがとう」
「……素手で食えたな」
「うん。磯村さんて結構食べるね」
「飲みじゃねぇしな」
指先を拭いて、テレビを見ている横顔を眺める。
イケメンだよね。
普通にイケメン。
こんなイケメンが、どうして私を選んだろう。
他にもたくさんいるだろうに。
たくさんいて、恐らく選び放題だっただろうに。
「何か飲むか?」
どことなく難しい顔で振り返られた。
「……何かあった?」
「ビールくらいしかねぇな」
「少し飲む?」
「少しなら大丈夫だろ」
「じゃ、持ってく……」
「いい。座ってろ」
立ち上がって、冷蔵庫からビールを2缶持ってきてくれた。
プシッと小さな音がして、ビールを飲む……やっぱり横顔。
鬼畜で、口が悪くて、たまに優しい磯村さん。