強引男子にご用心!

ふいにキスするし。
潔癖症って解っても、断り入れながら触ってくるし。

口は悪いし、どんどん近づいてきてはニヤニヤしているし。

嫌がる事もたまにはするし、今日だってタクシーに詰め込まれた訳だし?


「どうして私は磯村さんの事が好きなのか、さっぱり解らないけれど、好きなのよ」

真面目な顔で呟くと、磯村さんも真面目な顔で頷いた。

「……それはまた、反応に困りそうな発言だな?」

「単なる事実よ。反応は期待してないから」

「いや。惚れた女にそんなこと言われて、反応はすんなって方が無理があるだろう」

「ま、真面目な顔で茶化さないで!」

ひょいと眉がはねあがり、それから寄せられる。

「茶化してるわけじゃねぇ。そもそもお前はそこの信用度ねぇだろ」

「そんなわけないでしょ。信用してない人に…………」


み、身を任せるわけないじゃないか。


どれだけハードル高いと思ってるのよ。

わけも解らなくなることの方が多いけど、肌と肌が直接触れるのよ?

しかも、しかも……


「…………っ!」

ソファーに突っ伏すと、

「何を真っ赤になって悶えてんだよ」

いやに冷静で呆れた声が聞こえてきた。


…………そうね。
端から見ると変な人だわね。

解っているけれど、だって……ねぇ?

意を決して顔を上げ、キッと磯村さんを睨む。

「とにかく、解ってよ」

「お前が俺を好きなのは解った」

あー……まぁ、うん。

改めて言われると、なんとも恥ずかしいんだけど。


磯村さんはテレビを消すと、ビールを片手にテーブルに肘をついた。


「順番なんぞ気にすんな。解らなかったら聞くから、お前の言いたいように言ってみろ」

私の……言いたいように、か。

そうかな。
そうなのかも。

何も上手に話す必要はないだろうし。

上手に話せる自信もないし。

そもそも私と会話が成立していた人は、かなり限られる。
家族の他には水瀬のみと言う生活を、かなり長い間送っていたのだし。
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