強引男子にご用心!
ホコリは多いけれど、人が来ることは滅多にない区画。
新入社員の時からの私のオアシス。
仕事を教えるからと近づかれる事はないし、歓迎会だからと誘われる事もない。
ファイルを探して、見つけ出して、お渡しするだけの……簡単なお仕事。
その替わり、他の仕事は自力で覚えなくてはならなかったけど、そうしているうちに一人でいられるようになった。
「あんた、友達もいないの?」
「いますよ!どうしてそうなるんですか」
「いや……仲良く社食で昼休みって訳じゃなさそうだし、帰りも一人で帰るみたいだし。総務部でも近寄るなオーラだしてるし?」
……それはそうですが。
「あんたも深刻だなぁ。差し出されてるのに無視して、自分のペンでサインしてるの見て、マジかと思った」
「……どっちだっていいでしょう。貴方に関係ない話ですし」
さっさとファイル持って経理に行こう。
サボりに付き合うことになっちゃうし。
磯村さんの前を通り過ぎ、床に置いてあった段ボールから目当てのファイルを取り出す。
取り出して振り返ると、目の前に磯村さんがいた。
「俺としては、あんたと関係作るつもりでいるけど?」
「か、関係……ですか?」
「そう。関係ないとは言われない関係」
それはどんな関係?
横には積み上がった段ボール。
背後には、ホコリだらけの段ボールが乗った棚。
目の前には邪悪な笑みを浮かべる男。
逃げ場がない?
「今、抱きしめられんのと、後で飯付き合うのとどっちがいい?」
どっちも嫌だ。
「答えないなら、抱きしめかな」
「後でご飯付き合うことにします」
「そう。なら、退社後に駅で待ち合わせしよう。うちの近くの駅でいいな?」
コクコク頷くとスッと避けてくれる磯村さん。
過去数年間。
こんな脅しにあったことはない。
半泣きになりながら、資料保管室を飛び出した。