恋愛戦争
鍵を開けてエスコートしようと助手席を開けると、あからさまに引いた顔をされる。
「その反応おかしくね?」
「わたし後ろがいい」
「なんで」
「ナツの隣やだ」
「だめ、決定、晶は助手席」
渋々、本当に嫌そうに車に入った彼女は、果たして助手席に特別な思入れでもあるのだろうか。もしくは、俺と密室で近い距離にいることに緊張するとか。
いや、それはない。このドン引きした顔面を晒している晶にそれはないだろう。
カメラの入ったカバンを後部座席に置いて俺も隣の運転席へと移るが、態度はいたって普通。
切り替えがとても早い。
「シートベルト締めてね」
「うん」
カチャカチャとちゃんと引っ張って確認するところが可愛い。
横目で見ると目があった。
「なに」
「いや、なんでもない。出すね」
無言で頷いたのを確認して発進させた。
するすると駐車場を抜けて公道へと出ると見慣れた道をただ走るだけ。
なのに、助手席に座るのが晶だというだけでじんわり手汗が浮かぶくらいには、安全運転に努めている。
信号待ち、ここまで5分経ったが窓の外を永遠と眺める晶との会話は皆無だ。
エンジンをかけたと同時に流れたジャズに助けられるとは、思っても見なかった。
「ナツが運転してるのをみると時間が経ったんだなぁって実感する」
ぽつり。独白のようにそう呟いた彼女をみた。
目が合う。
「俺は大人の男になった?」
晶は少し笑う。
「ナツはナツのままでいいよ。大人じゃなくていい」
信号が青に変わり、会話が終わる。