もう一度、あなたと…
就業時間まで、なんとか仕事場にいた。
ちっとも身が入らず、ぼんやりとしてばかりだったけど、誰も、何も言わなかった…。

「…いったい何があったの⁉︎ なんであんなこと「ひかるの君」に言ったの⁉︎ …彼、本気でエリカのこと心配して、専務に相談してくれたんだよ⁉︎ 」

更衣室で話す舞に、何も言えなかった。
答えようともしないでいる私の側で、彼女は話し出すのを待ってるみたいだった。でも…

「ごめん…先帰って…」

背中のキスマークを見られるのが嫌だった。
あんなものが付ける時点で、彼の気持ちを疑った。

ため息をついて、舞が着替えだす。
白い肌の背中と細いウエストに目がいく。
ひかるに似合うのは、彼女みたいな女性だと思った。


(…もうダメかも…)

崩れるように泣き出した。
舞が更衣室を出るまで、我慢できなかった……。

「エリカ…どうしたの⁉︎ 」

舞が駆け寄る。
声を出して泣いてばかりいる私を、ぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫だって!「ひかるの君」怒ってたけど、本気じゃないって!」

何も知らない舞が慰める。
26才の私の大事な親友。
でも、これが夢だと思ってることは、誰にも話せないーーー

泣き続ける私に舞が戸惑う。

やっとひかると一緒に生き直したい…と思えるようになった自分が、どこへ向かっていくのか、全く…分からなくなったーーーーー





舞は私を連れて、マンションまでやって来た。
インターホンを押すとひかるが出てきて、彼女は私を引き渡した。

「ホントは帰りたくないって言ったんだけど、心配してると思って。だからあんまり怒らないでやって…」

言葉少なく言う彼女に頷いて、ひかるはドアを閉めた。
佇む私に声もかけず、彼は背中を向けた。
二人して黙り込む。
まるで、太一といる時みたいだった…。

(…あの結婚生活にピリオドをつけたくて、離婚届を書いてもらったのに…どうして今更、こんな夢を見るんだろう…)

32才のエリカだった頃、ひかるは私にとって会社の同僚以外の何者でもなかった。
時折、触れ合いはあったものの、その多くは事務手続きが滞る原因が彼にあって、イライラさせられてばかりだった。

その彼とこの夢の中で結婚して、思い描いてた通りのドレスと指輪を身に付けて、永遠の愛を誓った。
夢と現実がごちゃ混ぜになったような日々の中で、太一と同じ顔の人から傷つけられて、見たくない現実を見せられたような気がした。
でも、それはやっぱり夢で…今、この場所にいるのも全部夢で……

(だから…例え何があっても、いつか必ず醒める筈だから…)
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