今はまだ、このままで。
窓からは柔らかい陽射しが差し込んで、ボックス電車の古い車体独特の心地いい音。
突如静かになった梨乃に気づいて准一が視線を向けると、欠伸をかみ殺したような顔をしていた。
「梨乃?眠いなら寝ていいぞ?」
「ん」
「マラソンしたから疲れてんだろ?寄り掛かっていいから寝てな」
「うん…ありがと、准ちゃん…」
おっとりと紡がれた言葉のすぐ後に、身体の半身に僅かな重み。
その穏やかで幸福な感触に笑みを浮かべた所で、斜め前からは当然のように舌打ちが聞こえてきた。
悪ぃな、と声に出さずに口パクで勝ち誇れば、涼二はそ知らぬ顔で下を指差してきた。
「何?」
視線をそちらに向ければ、梨乃の開きそうな足を涼二の両足が挟み込むようにして押さえている。
思わず同じように舌打ちが零れて、准一は自嘲気味に笑みを浮かべた。
こんな大したことじゃないことにさえ、同じ立場の涼二にさえも、嫉妬心を剥き出しにしているなんて。