大切なものはつくらないって言っていたくせに
指定された店は、いつだったか遥とフェルと三人で行ったピッツェリアだった。
俺は、取材の仕事を終え、この日だけは古い友人に会いたいと同行するスタッフに断りを入れて夕方にその店に向かった。
いつだったかそこに三人で座った席に、既にフェルはいた。
だいぶ雰囲気が違う。 相変わらず、イイ男だけれど、あの王子様みたいな雰囲気よりも、迫力も増して大人の色気を感じさせるような男らしさがあった。
「よう。」
俺は照れ臭くなって、ニヤっと笑い声をかける。
フェルは、そのヘーゼルナッツ色の目でまっすぐ俺を見上げてプイっと目をそらす。
「座れば。」
怒っているようだった。
まあ、怒っている理由は、遥と同じかもしれない。 再会を おおよろこびで抱きつかれると思ったのに、ちょっと拍子抜けした。
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