今度こそ、練愛
見上げた瞬間、ちくりと視線が私に突き刺さった。
視線の主は岩倉君。鋭く尖った視線で私を見つめながら、くいとグラスを煽る。
『どうしたの?』と目で問いかけても伝わらなかったのか返事はなく、目を逸らしてしまう。
仕方なく私もグラスを手に取って、氷が溶けて薄くなったチューハイをひと口。小さくなった氷が勢いよく滑ってきて、こつんと上唇に当たる。不快な冷たさを感じながらグラスを置いた。
「大隈さん、飲んでる? 何か頼もうか?」
山中さんが顔を覗き込む。
ちょうど鼻の下についた雫を指先で拭き取っているところだったから恥ずかしい。
ちくりと痛いのは斜め向かいから注がれる岩倉君の視線。
いったい、何なんだろう。
山中さんに渡されたメニューを見ていると、岩倉君の視線が逸れていくのがわかった。
あれは好意とかではなく、敵意でもない。
「山中さんは飲まないんですか?」
「うん、今日は車だから。仲岡さんはお迎え?」
「はい、旦那にぜーんぶお願いしてきました」
「いい旦那さんだね」
「たまにはお願いして羽を伸ばさないと息苦しいですから、山中さんもいい旦那さんになってくださいね」
「僕も? なれるかな?」
「なれますよ、きっと」
仲岡さんと山中さんの会話を聴きながら、もやもやした気持ちで胸が疼いていた。