今度こそ、練愛

「本当に綺麗だよ、いい店の顔になったし、次の展示会でも早速頑張ってもらえそうだな」



と言って、山中さんが提げていた紙袋を高杉さんに渡した。仲岡さんがいっそう目を輝かせて私を見つめる。



だけど、私はそれどころじゃなかった。



川畑さんとの約束の時間は迫ってきている。駅前のカフェなら、ここから歩いて五分もあれば余裕で着く。高杉さんに抜けさせてほしいと言い出すタイミングも悩みどころ。



それよりも山中さんは、ここからどうするつもりなんだろう。私が店を抜けるより先に山中さんが帰るとしたら、こっそり後をつけてみる?



そのまま山中さんがカフェに直行したら、川畑さんだと確定される。これまで川畑さんのスーツ姿は見たことないけれど、どこかで着替えるつもりだろうか。
カフェに着いてから? それとも車の中で?



「大隈さん、大丈夫?」



高杉さんの声が、私の意識を呼び戻す。あまりにも真剣に考え込んでしまっていたようだ。高杉さんだけでなく、仲岡さんと山中さんまで私の顔をじっと見てる。




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