今度こそ、練愛
「はい、大丈夫です。すみません」
「まだ調子悪いの? 仲岡さんと一緒に休憩しておいでよ」
「有希ちゃん、大丈夫? ほら、ちょっと休もう」
山中さんからもらった紙袋を持って、仲岡さんが事務所へ促してくれる。
歩き出そうと一歩踏み出したところで、くらっと視界が歪んだ。体の力が抜け落ちていくような感覚に襲われて足が動かない。
「有希ちゃん? どうしたの? 気分悪いの?」
「すみません」
落ち着かせようと目を閉じて俯いたけど、頭の中がぐるぐると回っているような感覚。
どうしちゃったんだろう……
いつまでも治まらない眩暈が、この場に私を縛りつけてる。
「大隈さん、事務所で休んでおいで」
と言った高杉さんが、私のおでこに手を触れた。だけど、高杉さんとは何かが違うような気がする。
「熱があるじゃないか、もう帰った方がいい」
すぐ傍から降ってきたのは山中さんの声。山中さんはカウンターの向こう側に居たはずなのに、こんなに至近距離から声が聴こえてくるはずはない。
驚いて目を開けると、山中さんが真ん前に立っている。しかも高杉さんの手だと思っていたのは、山中さんの手だった。
思わず仰け反った体が、ふっと後ろに傾いていく。