今度こそ、練愛
「あぶないっ」
倒れそうになる私の腕を引いてくれたのは仲岡さん、腰を支えてくれたのは山中さんの腕だった。さっきよりも縮まった山中さんとの距離に焦ってしまうけど、腰に回した腕を解いてくれないことには離れることもできない。
「ごめんなさい、大丈夫です」
おろおろしながら言ってみると、ゆっくりと体が起こされて元の位置へ。
「有希ちゃん、今日は帰って休んだ方がいいよ」
「大隈さん、気にしないで帰りなさい。用事があるって言ってたけど今日じゃないといけないの? 他の日でよかったら今日はやめておきなさいよ」
「はい、ありがとうございます」
高杉さんの気持ちは有り難い。
でも川畑さんとの約束は今日の三時、すっぽかして帰る訳にはいかない。行けないとしても、ちゃんと断らなくちゃ。
「僕が送るよ」
「お願いします、大隈さん、着替えに行こう」
山中さんの声に呼応して、高杉さんが私の腕を引く。
ちょっと待って、と引き止めることもできず。
見上げた時計は二時三十分になろうとしていた。