今度こそ、練愛
山中さんの車の中は、淡い花の香りに似た優しい香りに包まれている。いろんな花の香りが混ざり合った店とは違っている。
山中さんの好みなのかな……
助手席に座らせてもらった私は、窓の外を眺めながら考えていた。
車が駅前のカフェの前を通り過ぎていく。
腕時計を見たら待ち合わせの時間まであと十五分。ここから私の家まで車で送ってもらったら、ちょうど三時になる頃だ。
川畑さんが待ち合わせの時間より早く到着したなら、私は約束をすっぽかすことになってしまう。
川畑さんが山中さんだったとしたら?
お互いにすっぽかすことになる?
それとも、ここで電話をしたら山中さんに繋がるの?
頭はぼーっとしているというのに、そんなことばかり考えてしまうから余計にもやもやしてくる。
ハンドルを握る山中さんの横顔を窺いながら、膝の上に載せたバッグからスマホを取り出した。
「寒くない? 温度上げようか?」
スマホを握り直して指を翳そうとした瞬間、山中さんが振り向いた。信号が赤に変わり、緩やかに車が停まる。
「はい、ちょうどいいです」
返事を聞いてもまだ山中さんは私を見たまま。小さく頷いてみても逸らそうとしてくれないから、私も逸らすタイミングを失ってしまう。